こんにちは!
自分の世界に夢中で、周りの声が聞こえていないような子。集団行動が少しだけ苦手で、一人で黙々と何かを作っている子。
そんな我が子の姿を見ていると、応援したい気持ちと同時に、「この先、お友達と上手くやっていけるのかな…」なんて、胸がチクッとしたり、不安になったりすること、ありませんか?
「普通」や「みんなと同じ」という物差しでは測れない、その子だけのユニークな世界。
今回は、そんな世界を、一人の男の子の視点を通して、優しく、そして美しく描き出した英語絵本『A Head Full of Birds』をご紹介したいと思います。
ここでは『A Head Full of Birds』の簡単なあらすじの他、文中に出てくる日常の英語表現、おすすめの読み聞かせ動画のご紹介や日本語訳などを掲載しています。
お話のあらすじ
ナネットは、頭の中に鳥をいっぱい飼っている女の子。
フルーツヨーグルトにハムを混ぜたり、誰もいないクモの巣を何時間もじっと眺めていたり。蝶のように指をひらひらさせながら、体を揺するのが好きです。
学校では、そんな彼女を、ほかの子たちが「バカだ」とからかいます。
でも、ナネットはその声を聞いていません。ただ下を向いて、「スカル、ダル、シーガル」と、心に浮かんだ言葉をつぶやくだけ。
同じクラスには、ノアという男の子がいました。
授業中に紙飛行機を飛ばした罰として、彼はナネットの隣の席に座ることになります。
最初は、ナネットの不思議な言動にイライラしてしまうノア。
ところがある日、彼は見てしまいます。ナネットが、自分で作った小さな色とりどりの船を、側溝の流れに浮かべて遊んでいるのを。
キラキラと色で満たされていく小川。ノアは思わずつぶやきます。「なんて、きれいなんだろう…」と。
それから、休み時間の土砂降りの雨の中、校庭の真ん中で空に手のひらを向けてじっと立つナネット。
周りの友達が彼女を指差して笑う中、ノアがとった行動とは…?
この絵本がそっと教えてくれること
「空気が読める子」や「要領がいい子」が良いとされがちな、私たち大人の社会。
ナネットのように、自分のペースと論理で世界を捉えている子は、時として「少し変わっている」「扱いにくい」と見られてしまうことがあります。
親としては、「どうして、みんなと同じようにできないんだろう」と、焦りや不安を感じてしまう瞬間もあるかもしれません。
この絵本の素晴らしいところは、ナネットを「直すべき存在」として描いていない点です。
物語は、もう一人の主人公、ノアの心の変化を丁寧に追っていきます。
最初はナネットを理解できず、イライラしていたノア。
でも、彼は彼女の世界を否定するのではなく、「あれは、なんだろう?」と、少しずつ興味を持ち始めます。そして、彼女が見ている世界の美しさや楽しさに、触れていくのです。
この絵本が教えてくれるのは、違いを「なくす」ことではなく、違いを「分かち合う」ことの豊かさなのかもしれません。
ナネットの「鳥がいっぱいの頭の中」は、欠点なんかじゃない。それは、世界を何倍も面白く、カラフルにするための、彼女だけの素晴らしい才能だったのですから。
英語学習のポイント
この絵本は、子どもたちの繊細な心の動きや行動を、シンプルで分かりやすい言葉で表現しています。今回は、日常の会話でも使える便利なフレーズを2つご紹介します。
to and fro
ナネットが体を「行ったり来たり、前後に」揺らす場面で使われています。ブランコや振り子など、物が前後に揺れる動きを表すのにぴったりの、可愛らしい響きのある言葉です。
例文:
The monkey on the swing went to and fro, higher and higher. (ブランコに乗ったお猿さんは、どんどん高く、前後に揺れていました。)
He paced to and fro in the waiting room. (彼は待合室を行ったり来たりと歩き回っていた。)
keep up with
ノアがナネットに「ついていくのに苦労する」場面で出てくるフレーズです。物理的な速さだけでなく、会話のスピードや勉強の進度などに「遅れずについていく」という意味で、非常に幅広く使えます。
例文:
He walks so fast, I can’t keep up with him. (彼は歩くのが速すぎて、ついていけません。)
She reads a lot to keep up with current events. (彼女は時事問題に遅れないよう、たくさん本を読みます。)
読み聞かせ動画のご紹介
日本語訳
This is Nanette
こちらはナネット
A little girl with a head full of birds.
頭の中に鳥がいっぱいの小さな女の子です。
Nanette mixes ham into her fruit yogurt.
ナネットはハムをフルーツヨーグルトに混ぜます。
She can sit for hours gazing at a spider’s web.
彼女は何時間も座ってクモの巣を眺めることができます。
Even though there’s no spider.
クモがいなくても。
She rocks back and forth, to and fro,
彼女は行ったり来たり、前後に揺れながら、
fluttering her fingers like butterflies.
蝶のように指をひらひらさせます。
At school, the kids are nasty and cruel.
学校では、子供たちは意地悪で残酷です。
“Hey you! You got a brain in that skull
「おい、お前!その頭蓋骨に脳みそ入ってるのかよ
Or are you just stupid and dull?”
それともただのバカで鈍いだけか?」
But Nanette doesn’t listen.
でもナネットは聞きません。
She looks down and mutters,
彼女は下を向いてつぶやきます、
“Skull, dull, seagull.”
「スカル、ダル、シーガル。」
In Nanette’s class, there’s a boy named Noah.
ナネットのクラスには、ノアという男の子がいます。
One day, during the lesson, he tries flying some paper planes.
ある日、授業中に彼が紙飛行機を飛ばそうとします。
Bad luck.
運悪く。
One of them lands at the teacher’s feet.
そのうちの1機が先生の足元に落ちました。
Noah is punished.
ノアは罰せられます。
He has to change seats,
彼は席を替わらなければなりません、
“Sit in the front.”
「一番前に座りなさい。」
Noah sits beside Nanette.
ノアはナネットの隣に座ります。
He’s annoyed.
彼はイライラしています。
He pushes her out of irritation.
苛立ちから彼女を押します。
Screech! The sparrow she was drawing is all messed up.
キーッ!彼女が描いていたスズメがぐちゃぐちゃになってしまいました。
“Oh,” whispers Nanette, “He won’t fly anymore.”
「ああ」とナネットはささやきます、「もう彼は飛ばないわ。」
“But birds and drawings don’t fly,” says Noah, getting angry.
「でも鳥も絵も飛ばないだろ」とノアは怒って言います。
“The drawing doesn’t fly. The bird does,” says Nanette softly.
「絵は飛ばないわ。鳥は飛ぶのよ」とナネットは優しく言います。
After school, Noah sees Nanette crouching at the edge of the sidewalk.
放課後、ノアはナネットが歩道の端でしゃがんでいるのを見かけます。
She’s dropping some bright little boats into the gutter.
彼女はきらめく小さな船を側溝に落としています。
They fill the stream with color as they float along.
それらは流れていくにつれて、小川を色で満たします。
Noah stops, looks at her, and thinks,
ノアは立ち止まり、彼女を見て、考えます、
That’s so pretty.
なんてきれいなんだろう。
The next day at recess, the rain is pouring down.
次の日の休み時間、雨が激しく降っていました。
Nanette walks into the middle of the schoolyard.
ナネットは校庭の真ん中へ歩いていきます。
Then she stands there, not moving, her palms facing the clouds.
そして彼女はそこに立ち、動かず、手のひらを雲に向けています。
Noah’s friends point at her.
ノアの友達は彼女を指差します。
“She’s so stupid! She’s so stupid!”
「彼女は本当にバカだ!本当にバカだ!」
Noah turns his back on them.
ノアは彼らに背を向けます。
And when he sees Nanette taking off her boots to splash in the water, he rushes out to bring her back under the shelter.
そしてナネットが水遊びをするためにブーツを脱ぐのを見ると、彼は彼女を避難所に戻そうと駆け出します。
But Nanette doesn’t want to move.
でもナネットは動きたがりません。
“Look,” she says.
「見て」と彼女は言います。
She fills her boots with the water streaming off the roof.
彼女は屋根から流れ落ちる水でブーツを満たします。
She hides one under her raincoat and hands the other to Noah.
彼女は片方をレインコートの下に隠し、もう片方をノアに渡します。
“Quick, let’s get back to class!”
「急いで、教室に戻りましょう!」
Noah struggles to keep up with Nanette as she zigzags her way up the stairs.
ナネットが階段をジグザグに進むので、ノアは彼女についていくのに苦労します。
When Noah gets to the landing, a boy bumps into him.
ノアが踊り場に着くと、ある男の子が彼にぶつかりました。
Splash! The boot tips over, and Noah is completely soaked.
ザブン!ブーツがひっくり返り、ノアはびしょ濡れになりました。
“Watch where you’re going!” says Noah angrily.
「前を見ろ!」とノアは怒って言います。
“Now it’s ruined!”
「もう台無しだ!」
I’m so sorry! Nanette” says Noah,
「本当にごめんね、ナネット」とノアは言います、
leaving the empty boot under his chair.
空になったブーツを椅子の下に残して。
“Don’t worry,” Nanette said,
「気にしないで」とナネットは言いました、
“one’s enough.” She takes Noah’s hand and slips a tightly folded bit of paper into his palm.
「一つで十分よ。」彼女はノアの手を取り、きつく折りたたんだ紙切れを彼の掌に滑り込ませました。
Noah smiles.
ノアは微笑みます。
Then he leans over Nanette’s boot to drop her little gift inside.
それから彼はナネットのブーツに身をかがめ、彼女の小さな贈り物を中に落としました。
The boat twists and twirls, dancing merrily across the water.
船はねじれ、くるくる回り、水面を陽気に踊ります。
And it’s so pretty.
そしてそれはとてもきれいです。
This is Nanette.
こちらはナネット。
And this is Noah.
そしてこちらはノア。
Nanette is friends with Noah.
ナネットはノアの友達です。
Noah is friends with Nanette.
ノアはナネットの友達です。
Together, they look after the birds that nest in their heads.
一緒に、彼らは頭の中に巣を作る鳥たちの世話をします。
最後に:「普通」という物差しを、そっと置いて
というわけで、今回は絵本『A Head Full of Birds』をご紹介しました。
誰の頭の中にも、その人だけのユニークな「鳥」が巣を作っているのかもしれません。
その鳥たちを無理に同じカゴに押し込めるのではなく、お互いの鳥小屋をそっと覗き込み、「君の鳥は、きれいな色をしているね」と微笑み合えたなら。
世界は、もっと優しく、彩り豊かになるような気がします。
「うちの子は、どんな鳥を飼っているんだろう?」
そんな風に、お子さんのユニークな世界を、面白がりながら探検してみる。その好奇心こそが、多様な他者と生きていく上で、何より大切な翼になるのかもしれませんね。